社会的治癒を認めるか(統合失調症)

2 以上の認定事実に基づいて、本件の問題点について検討し、判断する。
(1) 国年法第30条第1項の「初診日」とは、対象となる障害の原因となった傷病について初めて医師の診療を受けた日をいい、その傷病につき、初めて医師の「確定診断」がなされた日ではない。「初診日」を「初めて医師の確定診断を受けた日」と解すると、国年法による給付を受けることができる時期がいたずらに遅くなる恐れがある外、最悪の場合には、給付を受けることができなくなる場合もあり、このような観点から「初診日」をみる必要がある。
(2) 上記の点は、とくに当該傷病のような場合に当てはまる。当該傷病は、素質等による内因性の精神病で、病識を有しないのが通常であること、主に思春期以降に発病するとされるが、初期症状の段階では、思春期・青年期の悩みと病的な症状との区別が困難であること、その前駆症状としては、当該傷病に特徴的な幻覚、もう想等が現れず、神経症性障害やうつ病等と診断されることも少なくない。
(3) 請求人が昭和53年10月3日にE病院を受診した際の診断名は「心因反応」であるが、当時から被害念慮等があったこと、その後の経過からいって、この「心因反応」は平成元年2月20日に当該傷病と診断されたものと同一傷病とみるのが相当である。
(4) 承継人は、平成元年2月20日の3か月前までの約10年間は、請求人は家事、PTA役員などをして、平穏無事に過ごし、承継人も請求人の当該傷病のことを特に心配するようなこともなかったと申し立てているので(審査請求書の記載及び承継人の陳述)、以下、この点について検討する。社会保険の運用上、医学的には当初の傷病が治癒していない場合であっても、社会的治癒と認められる状況が認められるときは、再度発病したものとして取り扱われる。この社会的治癒があったといい得るためには、当該傷病につき医療を行う必要がなくなり、相当期間通常の勤務に服していること等が必要とされるが、請求人は、この間、常勤の雇用者として通常の勤務をしていたわけではないので、勤務状況から社会的治癒をみることができない。そのため、当該傷病が寛解している状態の者と同様に家事等、同人が日常生活をこなしていたかどうかを客観的に証する必要があるが、これについては、何の証明も提出されていない。また、本件においては、請求人がE病院への通院を中断した昭和61年11月2日から同人が他家に上がり込む等異常な行動をとった同63年12月27日までの間は、約2年1月強と短く、社会的治癒を認めることはできない。