社会的治癒の法理について 初診日の医証(医師の証明)が無い場合

2 以上認定した事実に基づいて、本件の問題点について判断する。
 請求人の当該傷病の初診日が、20歳到達日前にあったことを証明する資料はない。当該初診日を、大学4年当時の昭和46年ないし47年頃、C大学病院の証明書にある昭和54年3月5日、D病院での初診の日である昭和55年12月19日のいずれと認めるべきかはやや微妙な問題であるが、大学4年当時に初診日があったとすることは、これを証明する資料としては間接的なD病院のカルテの記載しかなく、また、この時に初診日があったとすることは、資料1の証明書の記載と矛盾することからいって無理があり、また、昭和54年3月5日に初診があったとすることは、前記証明書以外にこれを支持する資料がなく、しかもその内容は、単にC大学病院を受診した事実があることを明らかにするのみで、病名等は一切不明であることからして、やはり無理であるといわざるを得ない。結局、D病院を受診した昭和55年12月19日をもって当該傷病の初診日と認めるべきである。なお、この点に関して、保険者は、初診日は昭和43年1月15日であるにせよ、その後昭和55年12月19日までに、いわゆる社会的治癒の期間があったから、同日が初診日となる旨の見解を示している(審査官に提出した意見書)。しかし、そもそも昭和43年1月(又はその後に請求人が訂正した主張に係る昭和44年1月)に請求人の当該傷病の初診日があったと認め得ないことは前記のとおりであるうえ、いわゆる社会的治癒の法理は、傷病が外見上治癒したと見える期間が相当の長さにわたり継続した場合に、被保険者のその事実に対する信頼を保護して救済を与える趣旨のもとに考案されたものであって、保険者が被保険者の受給権を否定するための根拠として援用することは、その趣旨に反し、許されないところというべきである。保険者の前記見解は二重の誤りを犯すものといわなければならず、強くその自戒を求めたい。
 前記のとおり昭和55年12月19日を初診日とした場合、請求人について前記第3の(1)及び(2)の納付要件が具備されていないことは、前記1の(3)の事実から明らかである(なお念のために付言すれば、初診日を大学4年当時とした場合には被保険者期間外となり、また、昭和54年3月5日とした場合には前記1の(3)の事実に照らし納付要件が満たされないことになるので、受給権が発生しないことに変わりはない。)。
 したがって、請求人に対し障害基礎年金を支給しないとした原処分は、結論において相当である。