心疾患の初診日(相当因果関係があるか)

2 以上の認定事実に基づいて、本件の問題点について検討する。
(1) 先ず、心房細動の初診日が、平成8年3月28日であることについては、請求人及び保険者双方に争いはない。
(2) ところで、社会保険庁は、国民年金法及び厚年法上の障害の程度を判定する具体的な基準として国民年金・厚生年金保険障害認定基準(以下「認定基準」という。)を定めているが、給付の公平を期するための尺度として、当審査会も、この認定基準に依拠するのが相当であると考えるものである。
 この認定基準から必要部分を摘記すれば、次のとおりである。
ア 心臓ペースメーカーを装着した場合、障害の程度を認定する時期は、装着した日(初診日から起算して1年6月以内の日に限る。)とする(第1章11節/心疾患による障害)。
イ 初診日とは、障害の原因となった傷病について初めて医師又は歯科医師(以下「医師等」という。)の診療を受けた日をいい、具体的には次のような場合が初診日とされる。
[1] 初めて診療を受けた日(治療行為又は療養に関する指示があった日)が初診日となる。
[2] 同一傷病で転医があった場合は、一番初めに医師等の診療を受けた日が初診日となる。
[3] 健康診断により異常が発見され、療養に関する指示を受けた場合は、健康診断日が初診日となる。
[4] 障害の原因となった傷病の前に、相当因果関係があると認められる傷病があるときは、最初の傷病の初診日が初診日となる。
ウ ある行為(事象)からそのような結果が生じるのが経験上通常である場合に、両者の間には相当因果関係が認められる。相当因果関係のある前後の傷病は同一傷病として取り扱われる。
(3) 公開審理の場において、請求人は、心臓メイズ手術は心房細動に対する治療として通常行われる手術ではなく、○○○の○○○○の業務に復帰を望む請求人が特に求めて受けた手術であるから、当該傷病は手術時の医療事故によるものであると主張している。しかしながら、心臓メイズ手術も、きわめて普通に行われている治療法とはいえないにせよ、心房細動に対する根治的な治療法として一般に承認されている施術なのであり、また、その際に確率は高くないにせよ、当該傷病を併発する例もあることは前記のとおりであるから(請求人は、手術を受けるに際して当該傷病についてのリスクの説明はなかったと述べているが、仮にそうであったとしても、そのことが直ちにこの点の判断に影響を及ぼすものではない。)、施術に際して医師の過失があり、その結果として当該傷病が発生したと認められるような場合でない限り、このようにして発生した当該傷病と当初の心房細動との間には相当因果関係があるものというべきである。そうして、請求人の当該傷病が、医療の過失によって生じたものであると認めるに足る資料はない。
 したがって、当該傷病を含めた一連の疾病の初診日は、請求人が、会社の健康診断で心房細動を指摘された平成8年3月28日であるとするのが妥当であって、請求人が、心臓ぺースメーカーを装着した日(平成14年4月4日)は、この初診日から起算して1年6月以内の日ではないから、障害の程度を認定する時期は、裁定請求日とせざるを得ない。