事業主・人事担当者の方へ

 意外に思われるかも知れませんが、人事担当者から相談を受けることがあります。労災事故や労災が疑われるケースの他、百パーセント私傷病と思われるケースでも相談があります。

復職にあたって

 休職規定に定めた休職期間が満了となれば、そのまま自然退職。規定上はそうですが、実際はそう簡単にはいきません。休職期間の話をすれば、復職の希望が出ます。あえて話をしなければ、かえってこじれるでしょう。誰がみても全く働けない程の重度の障害であれば、ご本人もご家族も、退職で納得されます。退職金や休職期間の長短などとは関係なく、自ら退職を申し出する人も多いでしょう。
 しかし、実際は、そのようなケースは少ないでしょう。障害が残ったものの介護までは必要ない、身の回りのことはある程度できる、以前のような仕事は難しいけれども、できる仕事はある、といった人のほうが圧倒的に多く、そして、復職を希望される。
 もちろん、従前どおり仕事ができるのであれば復職です。従前どおりできなくても、配置転換や勤務軽減などを行えば仕事ができるのであれば復職です。問題は、配置転換や勤務軽減が行いにくい職場環境にあるときと、配置転換や勤務軽減で給与を大幅に減額しなければならないときです。

仕事に見合った給与、給与に見合った仕事、そして、全体の収入と支出

 仕事やお金に対する意識・考え方は人それぞれですが、共通しているのは、仕事に見合った給与、給与に見合った仕事、そして、全体の収入と支出です。能力や貯えは様々でも、考えることは共通です。
 支出については、病気の前後、退職の前後とで、さほど変化はありません。傷病になれば、日用品の購入、タクシー代、交通費、家事サービスの利用などは増加しますが、基本的な衣食住に関する費用は変化なく、遊興費など減額するものもあり、それらは、ある程度計算もできます。今まで1ヶ月20万円の生活費だった世帯が、一時的に30万円ぐらいになることがありますが、40万50万が未来永劫継続することにはなりません。
 一方、収入は大幅に減額しますし、傷病で退職を余儀なくされるほとんどの人は、その額の見込みが立ちません。退職すると給与は0円。傷病手当金は1年6月。雇用保険の失業給付は百数十日。退職金は○○円。計算できるのがここまでとなると、誰もが、とりあえずは、復職を、従前どおりの給与を希望します。生活ができないのは明らかですから、仕事に見合った給与、給与に見合った仕事などは、二の次。支出を賄うだけの収入の確保が最優先されます。
 企業としては、退職していただくしかない場合もあるでしょうし、仕事に見合った給与しか出せません。退職や復職後の給与などの話をする際に、常識的な案を理詰めで提案しても、従業員はなかなか受け入れてくれません。「仕事に見合った給与」「給与に見合った仕事」なんてことは、従業員にとっては、二の次の話。まずは、全体の収入の確保だからです。

高齢者と年金

 高年齢者の分野では、65歳までの雇用確保義務が求められ、60歳以降の給与は、年金と高年齢者雇用継続給付を考慮して、設計することが、一般的になりました。60歳の定年後の給与は、大幅に減額されていますが、継続雇用を希望する人が多く、また、希望しない人もいます。能力や蓄え、考え方もそれぞれですが、仕事に見合った給与、給与に見合った仕事を軸に、継続雇用の希望を判断されます。それは、全体の収入を把握しているからです。年金額がはっきりしている。すると必要な給与の額もはっきりする。あとは、能力と貯えとライフスタイルで考えれば済む。計算が立ちやすいのです。

企業の負担で、障害厚生年金の請求を行っています

 傷病で退職を余儀なくされる従業員はどうでしょう。たかが年金、されど年金。高齢者同様、障害者も年金で生活しています。その年金が支給されるのか否か、支給されるとしたらいくらなのかが、わからないで、退職の話などできるはずがありません。退職勧奨を行うのであれば、退職後の生活、障害年金や医療福祉制度の情報提供は不可欠です。ご自身に知識がなければ、それらの窓口の案内ぐらいはするべきです。そして、ある程度の見込み額を知れば、退職勧奨に応じやすくなるでしょうし、軽減勤務で大幅な給与減額も受け入れるでしょう。
 労災の案件ではありますが、企業の負担で、障害厚生年金の請求を行っています。進捗状況や結果を企業に報告することを条件にされますが、従業員もそのことに同意して行います。労災の障害給付や障害厚生年金の請求をすべて、本人任せにすると、企業は、どの程度の金額の保障を受けているのか把握できません。退職勧奨するにも、軽減勤務で給与を減額するにも、説得力の欠いた説明しかできません。十分すぎる保障を受けていたら、あえて、配置転換の検討をしなくても自ら退職を申し出されるかも知れません。低すぎる保障なら、これは障害の程度が軽いことも意味しますので、退職勧奨どころか、給与の減額も慎重にされたほうが良い場合になります。
 企業が費用を出し、社会保険労務士に依頼する値打ちは十分あると思っております。

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