医師の方へ

 近年、障害年金の診断書を依頼されることが多くなったと感じている先生方は多いでしょう。何回も訂正を求められたり、年金機構から照会を受けたりすることも多くなったのではないでしょうか。 精神科の先生がそのように感じられているのは、当然のこととして、それ以外の診療科の先生でも、特に50歳以上の先生は、そのように感じられているのではないでしょうか。
 実際、障害年金の請求は増えています。
 いわゆるうつ病(気分障害)の患者が増えていることは当然として、それ以外の理由もあります。

1.情報化社会と社会保険労務士

  • インターネットの普及と情報の入手
     インターネットの普及などにより、個人が、多くの、そして詳細な情報を入手しやすくなりました。20年ほど前は、身体障害者手帳の等級と障害年金の等級が一致していないことを知っていたのは、極々、少数の人達でした。医療・福祉関係者の中にも、障害年金は福祉の手当のように勘違いし、身体障害者手帳の4級、療育手帳の軽度は、障害年金は出ないと、半ば堂々と、説明していたこともありました。当時、身体障害者手帳の対象でなかった肝機能障害、免疫機能障害、脳脊髄液減少症(当時は、むち打ち症、現在も手帳の対象とはならない)、難病(軽症者は、現在も多くの人が対象にならない)、癌(現在も難しい)などで、障害年金が支給されることを知っていた人は、ほんの一握りの人でした。
     当サイトの運営者がウインドウズ95で、初めてインターネットに触れた十数年前は、「障害年金」で検索すると、病院のソーシャルワーカーの個人のぺージが数える程度。その後、病院の医療相談室のページが加わり、厚生労働省や社会保険庁、自治体のホームページも増えました。5年程前からは、社会保険労務士のホームページが主になりました。
  • 人道的支援とビジネスの両面を持つ「障害年金の請求」
     社会保険労務士は、弁護士・司法書士の「過払い請求」と同様、「障害年金の請求」を業として取り組んでいます。「過払い請求」が人道的支援とビジネスの両面があるのと同様、「障害年金の請求」も人道的支援とビジネスの両面を持っています。ビジネスの側面を持っているからこそ、人々に強く訴えかけられるのです。ビジネスとは無関係の役所のホームページでは、見過ごされていた情報が、社会保険労務士のホームページによって注視されるようになったのでしょう。過払い請求も、国や自治体などの公が啓蒙しても、効果はしれています。弁護士や司法書士が、PRしたから、認識されるようになったのです。うつ病が増えたのも、製薬会社のPRでしょう。障害年金の請求も同じです。
  • 社会保険労務士が障害年金の請求を行うことについて
     先生方の中には、社会保険労務士が障害年金の請求を行うことについて、快く思っておられない方がおられます。弁護士・司法書士の「過払い請求」は、最高裁のお墨付きを得て、民間の金融会社を相手に行われているものがほとんどです。社会保険労務士の「障害年金の請求」は、何のお墨付きもありません、そして相手は、国です。「過払い請求」に嫌悪感を持たずに、「障害年金の請求」に嫌悪感を持つのは、まさに官尊民卑の考えです。
     社会保険労務士を快く思わないなら、所属する医療機関のスタッフによる障害年金の請求を支援する体制を構築されたらいかがでしょう。多くの患者の利益につながります。多くの医療機関がそのような体制を構築していたなら、社会保険労務士の出番などなかったはずです。病院の医療福祉相談室のメインの仕事は何ですか?入院費滞納者の取り立てですか、転院先探しですか。・・・・。だから、社会保険労務士の出番が増えたのです。
     今まで障害年金の対象ではないと誤解していた人、病院にある医療福祉相談室の存在さえ知らなかった人が、請求するようになったのですから、増加するのは当然です。

2.老齢年金の支給開始年齢の引き下げ

 一昔前(平成12年度以前)は、60歳から満額の老齢厚生年金が支給されていました。50歳代後半で大きな傷病にかかり退職を余儀なくされても、1年6月は健康保険の傷病手当金があり、退職金と雇用保険失業給付などで60歳までしのげれば、後は老齢年金を受給すれば良かったのです。老齢年金と障害年金は、どちらかを選択することになっていますから、障害年金を請求する必要性は少なくなります。
 老齢厚生年金の支給開始年齢は、平成13年から段階的に引き上げられ、最終的には、65歳支給になります。仕事ができない60歳前半の人は、障害年金に頼らざるを得ません。
 今後も老齢厚生年金の支給開始年齢の引き下げは続きますので、相対的に障害年金の請求が増えます。

3.社会の変化

 障害に対する社会の偏見は、年々減少しています。個人の権利意識も年々高まっています。官尊民卑の感覚も過去のもの。役所の不祥事が大々的にマスコミで報道され、行政の仕組みに不満を持つ者も増えたでしょう。「お上や先生の言うとおりにしておれば、間違いない」と考える人は少なくなりました。20年前は「セクハラ」「ADL」「インフォームドコンセント」。今は「パワハラ」「QOL」「セカンドオピニオン」。薬害エイズ・肝炎訴訟があり、そんななか、年金記録問題が発生し、社会保険庁は年金機構に変わり、年金制度の持続性に疑問の意見が出始め、そして、インターネットが普及したのです。

  • 診断書の作成について
     仕方のないことなのかも知れませんが、先生への不満を良く聞きます。「診断書を書いてくれない」「話を聞いてくれない」「診断書のせいで不支給になった」などなど。
     診断書を作成することは、優先すべき業務ではありませんし、労働能力や日常生活能力を測ることも、優先順位としてはかなり低いことです。しかし、診断書は、医師以外が作成することはできないものですから、正当な理由が無い限り、診断書の作成を拒否することはできません。
     「障害が軽く、障害年金を請求しても無駄になる」というのは、正当な理由のようにも感じます。しかし、たとえ無駄になっても、障害年金を請求するか否かの判断は、患者さんの意思によるもので、先生が、患者さんの行為を制限することはできません。当たり前といえば当たり前ですが、私が聞く苦情は、そのようなものがほとんどです。
     障害年金の診断書の作成を断れるケースは、5年以上前の状態の診断書を求められた場合で、かつ、カルテが無いときだけでしょう。
     そのようなことは多くなく、ほとんどの場合、依頼があれば、作成しなければなりません。
  • 支給・不支給の見込みと初診日
     障害年金の難しいところは、支給・不支給の見込みが立ちにくいところにあります。一応、障害認定基準があり、その基準と診断書を照らし合わせば、おおよそ何級に該当するかの判断は可能です。
     しかし、障害年金の等級は重い順に1級、2級、3級、障害手当金とあり、軽い3級・障害手当金は、厚生年金・共済年金期間に初診日のある傷病に限られます。また、等級によって年金額が変わってきます。
     患者さんの初診日に加入していた年金制度が何なのか、これがわからなければ、支給・不支給の見込みは立ちません。さらに、この初診日が曲者で、「相当因果関係」「社会的治癒」などにより、前の傷病の初診日が初診日になることもあれば、再発後の初診日が初診日になることもあります。そもそも、ある時点の障害状態の原因が、特定の一つだけということは、どちらかというと少数で、多くの障害は、種々の原因が複合的に絡み時間の経過によって形成された状態です。しかし、初診日が複数あることは、年金制度上、認められませんから、いずれかの日が初診日として特定されます。結局、程度の問題になるのですが、実際の年金は、程度の問題を考慮することなく、オールオアナッシングです。程度の問題により特定された初診日とおぼしき日に加入していた年金制度から障害年金が支給され、初診日とおぼしき日に一定以上の未納があれば、障害年金は1円も支給されないことになります。
     診断書の内容に、口出すことは厳に慎まなければならないと戒めております。しかし、この初診日に関することだけは、制度をご理解したうえで、慎重に記載いただきたいのです。  障害の程度は、年月の経過とともに変化することもありますが、この初診日というのは、一度、特定されると、後で覆すのは至難の業です。
  • 障害年金の診断書を持ってこられる患者さんに一言かけてください
     何も言わずに、障害年金の診断書を持ってこられる患者さんに一言かけてください。「国民年金ですか、厚生(共済)年金ですか?」「誰かに相談されましたか?」と。「国民年金か厚生(共済)年金か」との問いかけに、答えられないような人は、障害年金の知識はほとんどないと考えて間違いありません。「同じ障害の程度でも、年金が支給される人と、支給されない人がいる」と伝え、相談員がいれば、相談員に相談されるよう促してください。いなければ、社会保険労務士に相談されてはどうかとお話ししてみてください。ある程度、理解したうえで請求して、不支給であったら、患者の不満を買うことはありません。不満を口にする人の多くは、障害年金の仕組みを理解されずに、診断書を出せば支給されると思い込んでいます。だから、結果が不支給なら、すべての原因は診断書にあると思い込むのです。「国民年金ですか、厚生(共済)年金ですか」その問いかけをするだけで、結果に対する患者の不満は激減します。
     これは本意ではないのですが、「国民年金ですか、厚生年金ですか」の問いかけで、「国民年金」ということが明確になった場合は、3級以下では支給されませんから、軽度の患者さんに限って言うと「障害が軽く、無駄になる」との説明も、ときには納得されるでしょう。
     「社会保険労務士に相談されては」も、その一言で、先生に向けられる障害年金の不支給に対する苦情の何割かは、社会保険労務士に向くのですから、使っていただいた方が良いでしょう。

最後に

     「年金の診断書ばかり。こんな軽い者まで請求とは。おかしいで。」これは余り口にされないほうが良いと思います。私も、同様な印象をもつときがありますが、ご本人は軽いと思っていないので。先生が説得するよりも、国に白黒付けてもらった方が、ご本人も納得できます。

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